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AIで作ったデザイン、そのまま印刷できますか?

AIでデザインが作れる。
もう、そんなことは当たり前の時代になってきた。
実際、なかなかすごい。
ちょっとした指示だけで、それらしいデザインがあっという間に出来上がる。
Canvaのようなツールもあるし、今や専門的なソフトを使えなくても、チラシやショップカード、商品ラベルまで自分で作れる時代だ。

グラフィックデザインの仕事を15年ほどやってきた身としては、なかなか複雑な気持ちになる部分もある。
でも、これは悪いことばかりじゃない。
今までデザインを誰かに頼むしかなかった人が、自分のアイデアを自分で形にできる。
これは素直にすごいことだと思う。

ただ、ここでひとつ問題がある。

そのデザイン、本当に印刷できる?

見た目はできている。でも……

以前、仕事でAIを使って作られたデザインデータを扱う機会があった。
ある商品のパッケージで、既存のデザインをベースに別の商品仕様へ展開するというものだった。

最初に見た瞬間、違和感があった。
書体が違う。
文字の間隔もおかしい。
レイアウトのバランスも崩れている。
元のデザインを参考にしたことは分かる。
でも、似ているようで、何かが決定的に違う。

そして問題は、見た目だけではなかった。

印刷するために必要なデータが、そもそも揃っていなかったのだ。

画面では見えない、印刷の仕組み

例えば、金色の素材を使った商品ラベル。
金色に見える部分は、必ずしも金色のインキで印刷しているわけじゃない。
金色の素材そのものを見せるために、あえてインキを載せない部分を作ることがある。
逆に、素材の金色が透けてほしくない部分には、下地として白インキを印刷することもある。

これが、いわゆる「白版」や「抜き」と呼ばれる処理だ。

今回扱ったデータでは、そうした仕組みがきちんと成立していなかった。
金色の素材を見せるはずの部分が、ただの白い色として作られていたり、必要な白版が用意されていなかったり。
画面上では似たような見た目になっていても、そのまま印刷したら意図した仕上がりにはならない。

つまり、画像として完成していることと、印刷物として成立していることは、まったく別の話なのだ。

もちろん、これは特殊な印刷の例。
でも、普通のチラシやパンフレットでも、同じようなことは起こる。

画像の解像度は足りているか。
色は印刷に適した設定になっているか。
裁断時に必要な塗り足しはあるか。
フォントは正しく扱われているか。

どれも画面を眺めているだけでは気づきにくい。
けれど、実際に紙に印刷するとなれば、無視できないことばかりだ。



「似たデザイン」と「同じデザイン」は違う

今回もうひとつ感じたのは、既存のデザインを展開することの難しさだった。
例えば、あるブランドの商品ラベルを作ったとする。
そのブランドに新商品が登場して、商品名や内容量だけを変更した別バージョンが必要になった。
簡単そうに思えるかもしれない。

でも、文字数が変われば、文字間隔も変わる。
書体の特徴を保ちながら、余白や配置を調整し直す必要がある。
それを適当にやってしまうと、元のデザインに似てはいるけれど、何かが違うものになる。

デザインには、完成した画像だけでは分からないルールがある。
書体の選び方、文字の組み方、余白の取り方、要素同士のバランス。
そういう細かい判断が積み重なって、ひとつのブランドの印象を作っている。

ゼロから新しいデザインを作ることと、すでにあるデザインのルールを守りながら展開することは、似ているようで結構違う仕事なのだ。
さらに、その先には印刷の仕様もある。
見た目を合わせるだけじゃなく、実際に製品として作れる状態にする。
ここまで来ると、単純な画像生成とは別の技術が必要になる。

じゃあ、AIは使えないのか?

いや、そんなことはない。
むしろ、AIを使ってデザインを作ること自体は、どんどん一般的になっていくと思う。

自分のお店のチラシを作ったり、イベントの告知画像を作ったり、商品のパッケージ案を考えたり。
今までならデザイナーに頼まなければできなかったことが、自分でできるようになる。
それはそれで、いいことだ。

ただ、AIが作ってくれたものを、そのまま何にでも使えるとは限らない。
例えば、AIで作ったチラシを印刷会社に入稿しようとしたら、データに不備があると言われた。
Canvaで作ったデザインを商品パッケージに使いたいけれど、印刷会社から専門的なデータを求められた。

そんなとき、せっかく作ったデザインを全部捨てて、最初から作り直す必要はないかもしれない。
足りない部分を補って、必要な形式に整える。
場合によっては、文字やレイアウトを調整したり、印刷用の版を作ったりする。

AIがデザインを作る。その先を、人間のプロが仕上げる。

そんな役割分担があってもいいと思う。

デザイナーの仕事は、どこへ行くのか

AIが進化するにつれて、「デザイナーの仕事はなくなるのか?」という話をよく見かけるようになった。
正直なところ、これからどうなるかなんて、誰にも分からない。
今できないことが、数年後には当たり前にできるようになっているかもしれない。

だから、「この仕事だけは絶対にAIにはできない」なんて言うつもりはない。
ただ、今の制作現場では、まだ人間が判断しなければならないことがたくさんある。

何を作るのか。
どう使うのか。
どんな素材に、どんな方法で印刷するのか。
そして、出来上がったものが、本当に目的を果たせる状態になっているのか。

デザインの仕事は、きれいな画像を作ることだけじゃない。

そのデザインを、実際に使えるものとして完成させるところまでが仕事なのだ。

少なくとも、私はそう考えている。

最後に

AIによって、デザイン制作の入口は確実に広がった。
それは歓迎すべきことだと思う。
一方で、画面上で完成したデザインを、実際に印刷できるものへ仕上げるには、まだ専門的な知識や技術が必要になる場面も多い。

だから、AIで作ったデザインを持ってきてもらっても、私はまったく構わない。
自分でそこまで作れたのなら、むしろ十分すごいことだと思う。
あとは、実際に使える形に仕上げればいい。

「見た目が完成していること」と「印刷データが完成していること」は違う。

この違いを知ってもらうだけでも、印刷物を作るときのトラブルは、ずいぶん減らせるんじゃないだろうか。


KyoMiura|三浦匡

グラフィックデザイナー。
実務経験15年。
チラシ・パンフレット・パッケージなどの印刷物を中心に、Web・映像まで幅広く制作しています。

Portfolio
https://kyomiura-parnassus.com

#グラフィックデザイン #AIデザイン #印刷データ #パッケージデザイン #デザイン制作
tayame
tayame

ご投稿ありがとうございます!
Webデザインでも、見た目が整っていても、実際の画面幅や文字量、操作の流れまで考えると調整が必要になるので、共感しながら読みました。

金色を「塗る」のではなく、素材を見せるためにインキを載せないというお話は、印刷ならではで興味深かったです。完成した見た目からは分からない設計があるんですね。

こうした仕上がりの違いを、印刷に詳しくない依頼者の方と共有するときは、どのような伝え方を工夫されていますか?

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