これまで専門的な知識やスキルが必要だったWebサイトやアプリのUIも、AIを使えば短時間で制作できるようになってきました。
しかし、誰もがデザインをつくれるようになったとき、企業はその品質をどのように維持すればよいのでしょうか。
今回注目するのは、デザイン会社のグッドパッチが2026年10月27日に発表した、新たなAIデザインプロダクト「Ensio(エンシオ)」です。
特徴は、AIにデザインを制作させるだけでなく、企業独自のデザインの判断基準や、その判断理由まで組織に蓄積する仕組みにあります。
■ AIでデザインをつくれても、品質を維持するのは難しい
生成AIの進化によって、デザインを制作するための時間やコストは下がりつつあります。
一方で、企業の制作現場には新たな課題も生まれています。
例えば、複数の担当者がAIで広告バナーを制作した場合。
それぞれの成果物は一定の品質を備えていても、色使いや文字の配置、ブランドの雰囲気が異なれば、企業としての一貫性が損なわれる可能性があります。
グッドパッチは2026年8月から、企業のデザインルールをAIに組み込む「デザインハーネス」の構築支援を提供してきました。
しかし、実際の支援を通じて、デザイナー以外の職種がGitHubやClaudeなどのツールを使いこなし、AIに与えるルールを継続的に管理することにはハードルがあるとわかったといいます。
つまり、AIによって「制作できること」と「企業として適切なデザインを継続的に生み出せること」は、別の問題なのです。
こうした課題に対応するために開発されたのがEnsioです。
■ 企業ごとのデザインの判断基準をAIに組み込む
Ensioでは、まずグッドパッチのデザイナーが企業のデザインルールや判断基準を整理します。
例えば、ブランドカラーやフォント、UIの設計ルールに加え、どのような表現を重視し、何を避けるべきかといった考え方です。
こうした情報は、社内のガイドラインとして存在していても、実際には経験豊富なデザイナーの頭の中に蓄積されている場合があります。
Ensioは、それらを言語化し、デザインシステムやユーザー情報と組み合わせて、企業専用のAIデザイン環境を構築します。
これにより、専門的なデザインスキルを持たない担当者でも、自社のルールを踏まえた制作に取り組めるようにすることを目指しています。
ここで重要なのは、単にデザインを自動生成するだけではないという点です。
「自社らしいデザインとは何か」を明確にし、それを組織全体で活用できる形にすること。
その仕組み自体に価値があります。
■ 「なぜ、このデザインを選んだのか」まで記録する
今回の発表で特に注目したいのが、デザインの採用・却下の理由を記録する機能です。
Ensioでは、生成されたデザイン案に対して、その案が適切だと考えられる意図や根拠が提示されます。
さらに、担当者が案を承認・却下した際には、その理由も記録されます。
例えば、あるデザイン案について「ブランドの印象に合わない」「ユーザーにとって情報がわかりにくい」と判断したとします。
こうした判断が担当者個人の経験として消えてしまうのではなく、組織の知識として蓄積されていくのです。
さらにグッドパッチのデザイナーが月に一度、制作物や判断記録を確認し、デザイン基準の見直しを支援します。
つまり、AIが独自にすべての判断を学習する仕組みではなく、AIと人間の専門的な判断を組み合わせ、継続的にデザインの品質を管理する仕組みです。
これまで属人的になりやすかったデザインの意思決定を、共有・継承できる状態へと変える取り組みといえるでしょう。
■ デザインの価値は「制作」から「判断」へ広がる
この取り組みは、企業におけるデザイナーの役割にも変化をもたらす可能性があります。
これまでデザイナーは、画面や広告などの成果物を制作するだけでなく、その品質を確認し、修正し、関係者との認識を合わせる役割も担ってきました。
しかし、一定の制作ルールをAIが参照できるようになれば、デザイナーは個々の制作作業だけでなく、より上流の活動に時間を使えるかもしれません。
誰の、どのような課題を解決するのか。
どのような顧客体験を実現すべきか。
何を企業として大切にし、どのようなデザインを選ぶべきか。
こうした問いに向き合うことは、単なる制作技術だけでは代替できない領域です。
一方で、Ensioはβ版の提供が始まった段階であり、導入企業における生産性や品質向上の効果が実証されたわけではありません。
企業ごとの判断基準をどこまで適切に言語化できるか、組織の変化に応じて更新できるかが、今後の重要なポイントになるでしょう。
■ 考察:デザインの思考を、組織の資産にする
今回のEnsioの取り組みから考えたいのは、デザインの成果物だけでなく、その背景にある「思考」の価値です。
一般に、デザインの評価は完成したアウトプットに集中しがちです。
しかし、その成果物が生まれるまでには、数多くの問いや判断があります。
なぜ、この色を選んだのか。
なぜ、この情報を優先したのか。
なぜ、別の案ではなく、この案を採用したのか。
こうした判断の背景には、ユーザーへの理解や事業戦略、ブランドの価値観が存在します。
それらを組織の中で共有できれば、担当者が変わってもデザインの一貫性を保ちやすくなり、次の意思決定に活用できる可能性があります。
デザインを組織の競争力に変えるためには、優れた成果物を生み出すだけでなく、それを生み出した思考や判断を蓄積することが重要なのではないでしょうか。
AIによって制作のハードルが下がる時代だからこそ、人間が何を大切にし、どのような価値を生み出したいのかが、より重要になります。
デザインを、個人のスキルから組織の知識へ。
そして、制作の工程からビジネスの意思決定へ。
Ensioの登場は、デザインの価値を改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。
あなたの組織では、デザインの「成果物」だけでなく、その「判断理由」まで共有できていますか?
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トンマナ維持、ブランディング維持は興味深いですね!!