「いいものをつくる」だけでは、デザインの価値は届かない。
Webサイト、ロゴ、プロダクト、ポスター。
デザイナーの仕事は、目に見える「成果物」で語られることが少なくありません。
しかし、その背景では、
なぜ、この形なのか。
なぜ、こちらを選んだのか。
そもそも、何をつくるべきなのか。
数えきれないほどの問いと判断が積み重なっています。
今回Spotlightでお話を伺ったのは、デザイン会社SHIPYARD代表の黒川成樹氏と、ディレクターの蓮池めぐみ氏。
SHIPYARDは「はじまりが楽しみになるデザイン会社」を掲げ、Webやグラフィックにとどまらず、プロダクト、店舗、イベントなど幅広い領域のデザインに取り組んでいます。
今回のテーマは、
「ビジネスを前に進めるデザイナーの在り方」。
成果物の裏側にある思考、企業とデザイナーの間にある壁、そしてこれからのデザインの価値について、FeatUと語り合いました。
SHIPYARDとは
SHIPYARDは、黒川成樹氏が代表を務めるデザイン会社。
完成したものを美しく整えるだけではなく、まだ形になっていない構想の段階からクライアントと伴走し、「なぜ、それをやるのか」という必然性を探りながらものづくりを行っています。
黒川氏はデザイナーとして活動する一方、東京・尾山台の新刊書店「WARP HOLE BOOKS」の店主や、東京都市大学の非常勤講師など、デザインの領域を越えた活動も続けています。
▶ デザインは、成果物をつくることだけではない
FeatU
黒川さんのお話を聞いていると、デザインを「ものをつくること」よりも、かなり広く捉えていますよね。
黒川氏
そうですね。
もちろん、最終的にものが出来上がることには価値があります。
でも僕は、それと同じくらい、ものをつくることで、それまで見えていなかった価値が見えるようになることに意味があると思っています。
例えば、何かたたき台があると、
「こっちの方が好きだな」
「この言い方はちょっと偉そうに感じる」
みたいな、それまで表に出てこなかった言葉が出てくる。
そうすると、自分たちが本当は何を大切にしているのかが少しずつ分かってくるんです。
ものをつくること自体が、対話するためのきっかけになる。
そこはデザインの大きな価値だと思っています。
▶ 一枚のポスターから、街の3年後を考える
FeatU
SHIPYARDでは、街づくりに関わる仕事もされていますよね。
黒川氏
結構多いですね。
街って、会社以上にいろいろな価値観を持った人がいます。
会社なら、場合によっては社長が「こっちに行こう」と決められるかもしれない。
でも街はそうはいかない。
住んでいる人、商店をやっている人、子ども、学生、高齢者。それぞれが自分の世界観を持っています。
だから、違う価値観を持った人たちの関係性をどう編んでいくか、ということをすごく考えます。
例えば夏祭りのポスターをつくる時も、単に「夏祭りがあります」と告知するだけではありません。
この商店街が3年後にどうなっていたいのか。
そこから考える。
このポスターが街中に貼られた景色を、住んでいる人たちが「いいな」と感じられるか。
それが、街に住み続けたいと思う理由になるかもしれない。
ポスターをつくりながら、みんなで「この街ってこうだよね」と話せる判断基準をつくっていくんです。
そうすると、ポスターづくりが、街の未来を話す場になっていく。
僕らは、そういうことも含めてデザインだと思っています。

SHIPYARDがポスターを手掛けた尾山台商栄会商店街振興組合 ”ハッピーロードカレッジ”
▶ デザインの「一番おいしいところ」が、納品されていない
FeatU
FeatUも、完成したポートフォリオだけではなく、そこに至る「思考」に価値があると考えています。
今回のお話を聞いていて、かなり近いものを感じました。
黒川氏
FeatUのプレスリリースを見た時も、そこにすごく反応したんですよね。
デザイナーって、制作するまでにものすごくリサーチをするし、
「どうしてこれなのか」
「なぜ、こっちではないのか」
をずっと考えています。
でも普通の受発注だと、最後に納品するのは完成したものだけ。
その途中で分かったことや考えたことは、納品物にもならないし、ポートフォリオにもなかなか載らない。
でも僕は、そこが一番おいしいところなんじゃないかと思っています。
次の意思決定につながるエッセンスが、そこには詰まっている。
だから制作物だけではなく、
「なぜ、この形になったのか」
という価値基準まで一緒に渡せると、デザイナーはもっとビジネスに価値を提供できると思います。
▶ 「デザイン発注」ではなく「制作発注」になっている
FeatU
一方で、デザイナーが企業の意思決定の上流に入るケースは、まだ多くないように感じます。
黒川氏
本当に少ないと思います。
そもそも、多くの場合は「デザインの発注」ではなく「制作の発注」なんですよね。
「Webサイトをつくってください」
「ロゴをつくってください」
と、つくるものが決まった状態で依頼が来る。
そうするとデザイナーは現場側にいて、つくったものを上に持っていって承認してもらう構造になる。
でも、代表や意思決定者と最初から話せるプロジェクトは全然違います。
「そもそも何をつくるべきか」
「なぜこれをやるのか」
から一緒に考えられるので、プロジェクトの動くスピードも変わる。
実際、一度何かをローンチしたけれど、誰もしっくりきていなくて、結局つくり直すことになった——という相談もあります。
そうなって初めて、デザイナーがもっと前に入る必要があったと気づく。
その出会いがまだ偶然に頼っているのは、課題だと思います。
▶ デザイナーは、もっとビジネスの現場に行った方がいい
FeatU
では、これからデザイナーの役割はどう変わっていくべきだと思いますか。
黒川氏
僕は、デザイナーがもっとビジネスの現場に行けるといいと思っています。
美しいものをつくることも、もちろん大切です。
でも、それだけではなくて、
異なる立場の人たちと話して、
それぞれが持っている価値観を表に出して、
一緒に判断できる状態をつくる。
そういうことも、デザイナーができる仕事だと思うんです。
立場や前提が違う人同士が、同じものを見ながら話せるようにする。
ある意味、共通言語をつくる仕事ですよね。
そういうデザインの力がもっとビジネスの中に入れば、企業や社会を前に進める力になると思っています。
▶ デザイナーとクライアントの間にある「見えない壁」
FeatU
企業側からすると、デザイナーへの依頼自体が難しいという問題もあります。
ポートフォリオを並べて見ても、「結局誰に頼めばいいのか分からない」と。
黒川氏
それは僕自身も感じます。
今はデザイナーと名乗る人も増えて、いろいろなバックグラウンドを持つ人がいます。
提供できるものの幅も、間違いなく広がっています。
一方で、その分、誰に何を頼めばいいのかは分かりにくくなった。
僕自身が外部のデザイナーさんと組もうとする時でも迷うので、ビジネス側からすると、もっと難しいですよね。
使えるツールや制作実績だけではなくて、
どう考える人なのか。
どう仕事を進めるのか。
何を経験してきたのか。
そういう部分が分からないと、本当の意味で相性を判断するのは難しいと思います。
▶ 「作っている途中」を、どう共有するか
FeatU
蓮池さんは、デザイナーとは少し違う立場からSHIPYARDのプロジェクトに入っていますよね。
デザイナーとクライアントのコミュニケーションについては、どう見ていますか。
蓮池氏
デザイナーの皆さんは、本当にクライアントのことを考えながらつくっています。
でも、つくることに集中すればするほど、その途中にいるクライアントが
「今どうなっているんだろう」
「このまま完成するのかな」
と不安になっていることに気づきにくいこともあります。
例えば、ラフを見せること自体はすごく良いと思います。
ただ、
「これは全体のどの段階なのか」
「今日は何を確認するためのラフなのか」
まで伝わっていないと、受け取る側は完成物に近いものだと思ってしまうかもしれない。
作り手には当たり前でも、依頼する側から見ると当たり前ではないんです。
黒川氏
蓮池が入ってくれたことで、それは本当に変わりました。
僕らは制作側なので、「こんなに考えてるんだから大丈夫でしょう」と思ってしまう。
でも、そのプロセスが相手からどう見えているのかは別の話なんですよね。
プロジェクトを横断して見ながら、
「これ、依頼する側だったら不安になりませんか?」
と言ってくれる人がいる。
その視点があるだけで、デザインの進め方自体が変わりました。
▶ デザインの受発注には「型」がない
FeatU
コンサルティングやシステム開発では、提案段階から進め方や成果物、プロセスをかなり明確にします。
一方、デザインではそこが見えにくいですよね。
黒川氏
そうなんですよ。
デザインの世界には、受発注をうまく進めるための「型」がほとんどないと思っています。
ポートフォリオは一生懸命つくる。
でも、
どういう順番で進めるのか。
どこで何を確認するのか。
なぜこの金額になるのか。
そこまで外に開いている会社はすごく少ない。
だから発注側は、実績や知名度を信じるしかなくなる。
例えば同じLPでも、30万円、50万円、100万円と金額が違う時に、
「何が違うのか」
が分からない。
でも、
「これだけリサーチして、これだけ対話して、このプロセスでつくるから300万円です」
と分かれば、企業側の納得感は変わると思うんです。
デザイナーが、自分たちの成果物だけでなく仕事の仕方まで開いていくこと。
そこもこれから重要になると思っています。
▶ デザインが届いていない人に、デザインを届ける
FeatU
最後に、SHIPYARDがこれから目指していることを教えてください。
黒川氏
今までの「デザイン」の説明だけでは届かなかった人たちに、デザインを届けたいと思っています。
困っているけれど、デザイナーに相談するという発想自体がない会社は、まだたくさんある。
でも、本当はそういうところにこそ、
考えを整理したり、
違う価値観をつないだり、
形にしながら未来を考えたりする、
デザインの力が役立つと思うんです。
つくることを通じて、一緒に考える。
そして「そうか、自分たちはこれをやりたかったんだ」と分かる。
そういう体験まで含めて届けていきたいですね。
編集後記
今回の対話で印象的だったのは、デザインの価値が「完成したもの」の中だけにあるわけではない、ということでした。
何をつくるのかを考える。
異なる意見を並べてみる。
ラフをつくる。
話してみる。
違和感に気づく。
そして、もう一度考える。
そのプロセスによって、初めて見えてくるものがあります。
黒川氏の言葉を借りれば、これまでの受発注では、その「一番おいしいところ」が成果物の裏側に隠れていました。
FeatUが大切にしている「思考」も、まさにそこにあります。
ポートフォリオに並ぶ完成物だけではなく、
なぜ、それをつくったのか。
何を考え、何を選び、何を選ばなかったのか。
どのように人と向き合い、プロジェクトを前に進めるのか。
そこまで見えるようになれば、企業とデザイナーの出会い方も、デザインの発注の仕方も変わっていくはずです。
デザイナーは、「依頼されたものをつくる人」ではない。
異なる立場の間に入り、対話を生み、判断するための共通言語をつくる人。
今回の対話から、そんなこれからのデザイナー像が見えてきました。
Profile
黒川 成樹(くろかわ・なるき)
SHIPYARD代表/デザイナー。
デザイン会社SHIPYARDを率いるほか、東京・尾山台の新刊書店「WARP HOLE BOOKS」店主、東京都市大学 都市生活学部非常勤講師など、デザイン、街、教育を横断して活動。早稲田大学政治経済学部卒。
蓮池 めぐみ(はすいけ・めぐみ)
SHIPYARD ディレクター。
さまざまな業態・規模の現場で人に寄り添ってきた経験を活かし、SHIPYARDのプロジェクトを横断的に支援。制作側とクライアント双方の視点を行き来しながら、プロジェクトの土台を整えている。

東京・尾山台の新刊書店「WARP HOLE BOOKS」にて(左:蓮池氏、右:黒川氏)
Company
SHIPYARD
「はじまりが楽しみになるデザイン会社」。
Webサイト、ロゴ、グラフィック、プロダクト、店舗、イベントなど幅広い領域を手がけ、構想段階からクライアントとともに考えながら、ものづくりを行うデザイン会社。
SHIPYARD のProfile | FeatUSHIPYARDのProfileSpotlightは、デザインとビジネスの最前線で活躍する方々の考え方や仕事観に光を当てる、FeatUのインタビューシリーズです。
私たちは、完成した成果物だけではなく、その背景にある「思考」にも価値があると考えています。
デザイン、経営、プロダクト、マーケティング、テクノロジー。
領域を越えて価値を生み出す人々の言葉を、これからもお届けしていきます。