企業のロゴが変わる。
ニュースやSNSで新しいロゴが発表されると、私たちはつい、その見た目を比較してしまいます。
「以前の方が親しみやすかった」
「新しいロゴは洗練されている」
「シンプルになったけれど、個性が薄れた気がする」
そんな意見が交わされることも珍しくありません。
しかし、ロゴの変更を見た目の良し悪しだけで判断してよいのでしょうか。
2026年も、多くの日本企業がロゴやブランドの刷新に取り組みました。
興味深いのは、それぞれの企業が、必ずしも同じ方向を目指していないことです。
長年の象徴を残しながら表現を整理する企業。
複雑になったブランドを統合する企業。
事業の枠を超え、新しい理念を社会に伝えようとする企業。
そして、将来の成長を見据えて、変化し続けられるロゴを設計する企業。
今回は2026年に実施された4つの国内事例から、リブランディングにおける「変えること」と「残すこと」の意味を考えます。
■ CASE 01|日野自動車:32年ぶりの刷新。それでも変えなかったもの
2026年3月、日野自動車はコーポレートロゴを32年ぶりに改定すると発表しました。
新しいロゴは4月1日から順次使用されています。
これまでのロゴが制定されたのは1994年。
長く親しまれてきた「HINO」の「H」をモチーフとする基本的な造形は、そのまま継承されました。
一方で、反射を表現していた細かな装飾を取り除き、視認性と可読性を高めています。
また、従来は複数の種類が存在していたロゴを1種類に統一。看板や資料などのブランド表現では「HINOレッド」をより強調しています。
この刷新には、企業を取り巻く大きな環境変化がありました。
商用車業界では、電動化、コネクテッド技術、デジタル化などへの対応が求められています。
さらに日野自動車は、新社長の就任やARCHIONグループへの参画という経営上の転換点を迎えていました。
企業として新たな段階に進む。
それでも、ブランドの象徴をすべて取り替えることは選ばなかったのです。
ここで注目したいのは、デザインの変更範囲を意識的に絞っていることです。
時代に合わなくなった装飾は整理する。一方、長年培ってきた認知資産や、そこに込められた思想は残す。
実際、車両に採用されているエンブレムは今回変更されていません。
リブランディングとは、必ずしも大きく変えることではない。変えないものを見極めることも、重要な意思決定なのです。
■ CASE 02|ENECHANGE:ロゴだけでなく、ブランドの構造を変える
2026年3月、エネルギーテック企業のENECHANGEは、サービスブランド体系の刷新を実施しました。
背景にあったのは、事業拡大によって複雑化したサービスの構造です。
同社は電力比較サービスから事業領域を広げ、個人向け、法人向け、エネルギー事業者向けなど、多様なソリューションを提供してきました。
一方で、それぞれのサービスが個別の名称やブランドで展開されることで、企業全体として何を提供しているのかが伝わりにくくなるという課題が生じていました。
そこで実施したのが、ブランド体系そのものの再整理です。
具体的には、各サービスに「エネチェンジ」の名称を冠し、顧客の種類に応じてブランドを分類。
サービス名やロゴの表記ルールを統一し、公式サイトや広告などの接点でも一貫した表現を取り入れています。
新たなカタカナのロゴタイプには、工業的な印象を持つステンシルの要素を取り入れ、エネルギーを支える企業としての信頼感や実行力を表現しています。
なお、同社の既存のコーポレートアイデンティティそのものは継承されています。
ここで考えたいのは、ブランドのわかりやすさが、ロゴ単体のデザインだけでは決まらないことです。
例えば、どれほど美しいロゴをつくっても、サービスの名称や分類が複雑であれば、顧客は自分に必要なものを見つけにくいかもしれません。
反対に、ブランドの構造を整理することで、顧客が企業の提供価値を理解しやすくなる可能性があります。
デザインの対象は、ロゴの形だけではない。企業が持つ複数の事業やサービスを、どう整理し、どう伝えるかという情報構造そのものにも及びます。
ENECHANGEの事例は、リブランディングと事業戦略の密接な関係を示しています。
■ CASE 03|ローランズ:ブランドの理念を、店舗や商品まで浸透させる
2026年3月、花屋を運営するローランズは、創業以来初となるリブランディングを発表しました。
ローランズは、花やグリーンを扱う事業に加え、障害者雇用の支援などにも取り組んできた企業です。
今回のブランド刷新で掲げたのは、「だれもが花咲く社会」の実現。
花を販売するという事業の枠を超え、人の可能性や生命力を社会に伝えるブランドへと、その理念を表現し直しました。
具体的には、従来の上質な印象を残しながらロゴの文字組みを調整。
ブランドカラーには、土の温かさをイメージした「Warm Gray」を採用しています。
さらに、組織として大切にする9つのバリューを策定し、そのうち8つを包装紙のデザインにも展開しました。
商品を包む包装紙や紙袋、スタッフのエプロン、店舗の空間に至るまで、企業の価値観を体験できるようにしているのです。
新しいブランド表現は、3月6日に開業した丸の内の店舗「LORANS MARUNOUCHI」から導入されました。
この事例で注目したいのは、理念を言葉として掲げるだけで終わらせていないことです。
例えば、「多様性を大切にする」という企業のメッセージは、それだけでは抽象的に感じられるかもしれません。
しかし、顧客が手に取る商品や、店舗で目にするデザイン、そこで働く人々との接点を通じて、その価値観に触れることができます。
ブランドの理念を、顧客が実際に体験できる形へと変換する。
ローランズのリブランディングは、企業が何を大切にしているかを、視覚表現だけでなく日常の接点にまで広げる取り組みといえるでしょう。
■ CASE 04|ユニオンテック:成長し続ける企業のための、変化できるロゴ
2026年7月、空間デザイン・設計・施工を手がけるユニオンテックが、創業以来初となるコーポレートロゴの刷新を発表しました。
この10年間で、同社は事業を大きく拡大。
公式発表によると、展開地域は1か国から3か国へ、事業・サービスは1事業・2サービスから23事業・サービスへと広がりました。
事業が拡大する一方で、従来のブランド表現だけでは、企業の現在の姿や今後の方向性を十分に伝えきれなくなっていたといいます。
そこで、新たなタグラインとして掲げたのが、
「人類に意義ある空間を。」
という言葉です。
単に空間を施工する会社ではなく、人や社会に意味のある体験を生み出す会社として、自らを再定義しています。
そして、新しいロゴにも特徴的な仕組みが取り入れられました。
それが、ロゴの「O」の部分です。
この文字を、人や価値が集まる「場」として捉え、用途に応じて大きさや形を変えられる設計としています。
さらに、グループ内の事業ごとにカスタマイズして展開することも可能です。
一般にロゴは、常に同じ形を保つことで認知を蓄積するものと考えられます。
しかし、ユニオンテックは共通のルールを維持しながら、事業ごとの違いや将来の拡大にも対応できる柔軟性を持たせています。
ここには、ブランドを完成した一つの図形ではなく、企業の成長に合わせて展開できる仕組みとして捉える発想があります。
変わらないことによって一貫性を保つのではなく、変化するためのルールを持つことで一貫性を保つ。
今後の事業拡大を見据えた、興味深いブランド設計です。
■ 2026年の4つの事例から見える、リブランディングの本質
今回取り上げた4社の取り組みは、それぞれ目的も手法も異なります。
日野自動車は、ブランドの歴史を継承しながら、現代の利用環境に合わせて表現を整理しました。
ENECHANGEは、複雑化したサービスの構造を見直し、顧客にとってわかりやすいブランド体系を目指しました。
ローランズは、企業の理念をロゴから商品、店舗まで一貫した体験として表現しました。
ユニオンテックは、今後も拡大する事業に対応できる柔軟なブランドの仕組みを設計しました。
これらを比較すると、リブランディングには少なくとも3つの重要な役割があることが見えてきます。
一つ目は、企業が積み重ねてきた価値を整理すること。
ブランドは一朝一夕で生まれるものではありません。
顧客との接点や商品・サービスの体験を通じて、少しずつ認知や信頼が蓄積されます。
そのため、刷新にあたっては、何が今も価値を持ち、何を未来へ引き継ぐべきなのかを見極める必要があります。
二つ目は、企業の現在の姿を正しく伝えること。
事業が変わり、顧客が変わり、提供する価値も変化しているのに、ブランド表現だけが過去のままでは、企業の実態と顧客の認識にズレが生じる可能性があります。
リブランディングは、そのズレを見直す機会にもなります。
三つ目は、これからの企業のあり方を構想すること。
新しいブランドは、現在の企業を説明するだけのものではありません。
これからどんな領域に挑戦するのか。
どのような価値を提供していくのか。
誰と、どのような関係を築いていくのか。
そうした未来の方向性を示す役割も担っています。
■ 考察:ロゴを変える前に、経営が決めるべきこと
今回の事例を通じて考えたいのは、デザインと経営の関係です。
企業のリブランディングは、ロゴやWebサイトの制作プロジェクトとして始まることがあります。
しかし、優れたデザイナーに依頼して、美しいロゴを制作すればブランドが強くなるのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
どれほど洗練されたデザインであっても、企業が何を大切にし、誰にどのような価値を届けたいのかが曖昧であれば、その表現にも一貫性を持たせることは難しくなります。
また、ロゴを変更しただけで顧客の認識や行動が変わるとも限りません。
実際の効果を考えるなら、ブランド認知、サービスの探しやすさ、顧客の理解度、利用意向などを継続的に検証する必要があります。
だからこそ、リブランディングはデザイン部門だけで完結するものではなく、経営や事業の意思決定と結びつけて考える必要があるのではないでしょうか。
何を変えるのか。
何を残すのか。
これから何者になりたいのか。
その判断を明確にしたうえで、デザインによって表現し、顧客との接点に落とし込んでいく。
デザインをビジネスの意思決定の中心に置くとは、こうした企業の未来を選ぶ段階から、デザインの視点を活用することでもある。
ロゴは、どこまで変えていいのか。
その答えは、新しいデザインの中だけにあるのではありません。
企業がこれまで積み重ねてきた価値と、これから実現したい未来。
その両方を理解した先に、初めて見えてくるものなのかもしれません。
あなたの会社が明日リブランディングするとしたら、何を変え、何を残しますか?