良いCXをつくるだけでは、企業は変わらない。
「顧客起点」「データドリブン」「DX」「CX」。
企業の現場では、さまざまな言葉が飛び交っています。
しかし、その取り組みの先にいるはずの「人」は、本当に見えているのでしょうか。
そして、顧客にとって良い体験をつくったとしても、それを生み出し続ける企業の事業モデルや組織が変わらなければ、一過性の取り組みで終わってしまうのではないでしょうか。
今回Spotlightでお話を伺ったのは、パースペクティブ株式会社のディレクター 薗川氏。
IT、コンサルティング、CX・UX、新規事業など、約30年にわたりさまざまな領域で企業の課題解決に携わってきた薗川氏が、現在大切にしている言葉があります。
「人起点」。
CXとは何か。
日本企業はなぜ変革しづらいのか。
そして、CXを本当の意味で企業に実装するためには、なぜ「組織デザイン」まで変える必要があるのか。
FeatUが考える「デザイン」や「想い」の重要性とも重ねながら、これからの企業変革について語り合いました。
パースペクティブ株式会社は、製薬企業をはじめとするヘルスケア業界を中心に、企業の課題解決を支援するコンサルティングファームです。
マネジメントコンサルティングと、自社サービスやBPOなどのリアルビジネスの双方を展開し、戦略立案だけでなく、その先の実行や運用まで含めた価値提供を行っています。
特定の業界に軸足を置き、提言にとどまらず、業務の運用まで一緒に担うことを特徴としています。
薗川氏も現在、そのパースペクティブで企業の事業課題と向き合っています。
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ITからコンサルティング、そしてCX・UXへ
FeatU
まず、薗川さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
現在は「人起点」という考え方をかなり大切にされていますが、最初からCX・UXの領域にいたわけではないんですよね。
薗川氏
社会人としてはもう30年近くになります。
キャリアの前半は、IT業界でのシステム関連の仕事をしていました。
その後、もっとお客様の事業課題そのものを解決する仕事がしたいと思い、外資系のコンサルティングファームに入ってシステムに限らず様々な仕事をするようになりました。
当時は、今のようにCXやUXという言葉を強く意識していたわけではありません。
大規模プロジェクトのPMOだったり、地方創生に関するポータルサイトの立ち上げだったり、企業の課題を解決することが中心でした。
大きく考え方が変わったのは、その後に入ったbeBitですね。
一度退職して戻った期間も含めると、合計で5年ほど在籍しました。
そこで、CXやUXそのもの以上に、「人を起点にものを見る」という考え方の強さを実感しました。
サービスをどう良くするかを考えてから人を見るのではなく、人がどういう文脈の中で何を求めているのかを先に見る。そのうえで、事業や体験を組み立て直す。
この順番の違いが、想像以上に大きいということを、そこで実感しました。
CXとは、「サービスを使う瞬間」だけではない
FeatU
薗川さんは、CXをどう定義していますか。
薗川氏
正直、CXとUXの厳密な定義には、そこまでこだわっていません。
カスタマージャーニーを一本の線で描いて、
「認知しました」
「比較しました」
「購入しました」
と整理するだけでもないと思っています。
どちらかというと、ジョブ理論に近い感覚があります。
その人には何か片付けたいことがあって、その人自身の文脈の中で、それがどう解決されるのか。
その人が本当に片付けたいことは、私たちが提供しているサービスの外側にあることも多いんですよね。
単にマイナスがゼロになるだけでなく、そこからプラスになって、
「快適だった」
「幸せになった」
と思える。
そういうものまで含めた体験や経験のすべてを見たいと思っています。
データの前には、必ず「人」がいる
FeatU
今は「データドリブン」という言葉がすごく強いですよね。
でも、今のお話を聞いていると、データを起点に考えるのではなく、その前に「人」がいるということですよね。
薗川氏
人が何かを体験して、その結果としてデータが生まれる。
言い換えると、データは結果として残るものであって、出発点ではない。
そこを取り違えると、データはたくさんあるのに、その人が何を求めていたのかは分からない、ということが起きてしまう。
例えば製薬企業の場合、直接の顧客としては医師がいる一方、その先には患者さんがいます。
薬を手に入れられたかだけではなく、
治療によってどうなったのか。
その過程でどんな体験をしたのか。
そこまで見ていく。
そして良い体験が生まれれば、結果として対価が支払われたり、データが蓄積されたりする。
そのデータを使って、さらに新しいサービスをつくる。
人がいて、体験があって、その結果としてデータや対価が生まれ、それがまた次の体験をつくっていく。
この順番を崩さないこと。それが、私の言う「人起点」です。
人起点」と「利益」は、対立するものではない
FeatU
「人を起点にする」というと、顧客満足を最優先して、とにかく良い体験をつくるという話にも聞こえます。
でも薗川さんのお話では、そこに事業としての利益も入っていますよね。
薗川氏
そこはすごく重要です。
企業は慈善事業ではないので、当然、事業として成立しなければいけません。
だから私は、良い体験をつくることだけで終わるのは違うと思っています。
体験が良くなることと、企業の利益が上がることを、ちゃんとつなげて考える。
例えばKGIやKPI、NSM(North Star Metric)などを使いながら、
「この体験が良くなった結果、何が変わったのか」
を見ていく。
良いデザインですね、良い体験ですね、で終わってしまって、マネタイズできなければ、サービスそのものを維持できない。
CXを事業の中に置くのであれば、そこまで設計する必要があると思っています。
UIを改善することが、CXではない
FeatU
FeatUでも、デザインという言葉が「見た目を良くすること」に限定されていることに課題意識を持っています。
薗川さんも、UIという言葉には少し違和感を持たれていますよね。
薗川氏
極端に言うと、「UI/UX」と言った瞬間に、議論が狭くなってしまうことがあると思っています。
アプリを使いやすくしました。
Webサイトをきれいにしました。
それで「UI/UXを改善しました」と言えてしまう。
でも本当の体験は、もっと前から始まっている。
製薬の例なら、病気になり、病院に行き、診断され、治療を受け、その後の生活がある。
その一連をどう捉えるかですよね。
私は、システムをどうつくるのかも、事業モデルをどうつくるのかも、組織をどうするのかも、人をどう育てるのかも、全部デザインだと思っています。
画面だけをデザインしても、事業全体が変わらなければ大きな価値にはつながりません。
デザインを画面の話だと捉えている限り、その外側にあるものは変えられないんですよね。
良いCXを一度つくっても、企業に「インストール」されなければ戻ってしまう
FeatU
ここは、今回のお話ですごく重要なポイントだと感じました。
CXの理想像を描いても、それを実現する企業側が変わっていなければ続かない。
薗川氏
企業の中にその考え方がインストールされなければ、最終的には元に戻ってしまう。
だから、CXを考えるのであれば、顧客側の体験だけではなく、それを継続して生み出せる事業モデルや運営の仕組みまで変える必要がある。
ローンチはゴールではなく、むしろスタートです。
そこから顧客起点でどう運営し、改善し続けるのか。
絵を描いて渡すところまでは、外からでもできます。
でも、それを実際に回し続けるのは事業側の人たちなので、そこに考え方が移っていないと、どうしても続かない。
日本企業は「点」で変革している
FeatU
DXやAX、新規事業など、日本企業も変革にかなり投資しています。
それでもなかなか変わらないのは、なぜだと思いますか。
薗川氏
私は、一つひとつを「点」でやっていることが大きいと思っています。
DXをやる。
システムを入れる。
データを活用する。
CXを改善する。
それぞれ単体では間違っていない。
でも、
「そもそも何のためにやるんだっけ」
という目的や、その先の事業につながっていないことが多いんですよね。
「DXをやること」が目的になってしまって、
「なぜDXをするんですか」
と聞いたら、
「親会社から言われているからです」
となってしまう。
それだと変革にはならないと思います。
順番としては、何を実現したいのかが先にあって、その手段としてDXがあり、データがあり、CXがある。
その順番が入れ替わっている限り、いくら投資をしても「点」のままなんですよね。
日本企業を変える鍵は「組織デザイン」なのではないか
FeatU
では、人起点で事業全体をつなぐために、日本企業には何が足りないのでしょうか。
薗川氏
まだ仮説ですが、私はいま、かなり組織構造に原因があるんじゃないかと思っています。
企業の中では、
事業は事業。
ITはIT。
人事は人事。
運用は運用。
と、機能ごとに分かれていますよね。
でも顧客の体験は、そんな組織図通りには存在していない。
本当は全部つながっているのに、企業側が分かれているから、どうしても途中で切れてしまう。
だから、人起点経営を本気でやろうとすると、今の組織構造そのものを見直す必要があるんじゃないか。
最近は、そんなことを考えています。
組織が、人の「想い」を消してしまう
FeatU
組織デザインという話を聞いて、もう一つ感じたことがあります。
企業の中で変革を進めていると、最初は「こうしたい」「こういう社会をつくりたい」という想いがあった人でも、徐々その想いが薄れてしまうことがありますよね。
部署のKPIがある。
評価制度がある。
目の前の業務がある。
そうすると、本来実現したかったことよりも「自分がやるべき仕事」が優先されてしまう。
もしかすると、日本企業に足りないのは、テクノロジーやデータだけではなく、人の想いを企業の力に変え続けられる仕組みなのではないでしょうか。
薗川氏
そこは、実感としてあります。
私自身、お客様と仕事をしていて、
「こういう社会を実現したい」
「こういうことをやりたい」
という熱い想いを聞く機会が、実はそこまで多くないと感じています。
もちろん最初は想いを持って入社した人もいる。
例えば教育の仕事をしたい、子どもの成長に関わりたいと思って入ったとしても、組織に入ると、その組織の枠組みや評価制度の中で行動するようになる。
すると、
「そもそも自分は何をやりたかったんだっけ」
というギャップが生まれてしまう。
組織というバイアスが、人の想いを弱めてしまうことはあると思います。
FeatU
組織の構造そのものが、人の想いを弱めてしまうということでしょうか。
薗川氏
会社が大きくなると、当然、機能分解されていきます。
営業、マーケティング、IT、人事、経営企画。
それぞれに役割やKPIが設定される。
企業が成長するためには必要なことなんですが、その結果、壁が生まれる。
そして一人ひとりが、
「自分はこのKPIを達成すればいい」
となっていく。
でもDXや新規事業のようなトランスフォーメーションは、本来、横串でやらないと実現できないですよね。
この機能別に最適化された組織と、横断的な変革との矛盾が、日本企業の大きな壁になっている気がしています。
だから私は今、人起点で経営するためには、どういう組織モデルが必要なのかを考え始めています。
ティール組織にすれば解決する、という単純な話でもないと思います。
ただ、組織のデザインまで踏み込まない限り、本当の意味での変革にはならない。
そこはかなり重要なテーマだと思っています。
「データがないから負けている」のではないかもしれない
FeatU
今日のお話を聞きながら、FeatUとしても一つ気づきがありました。
日本企業が海外の企業に負けている理由として、
「データ活用が弱い」
「デジタル化が遅れている」
「AIを使えていない」
という説明はよくされます。
でも、それは結果だけを切り取っているのかもしれません。
もともと、
「これを実現したい」
「顧客のためにこうしたい」
という強い想いがあって、その実現手段としてデータやテクノロジーを使う。
その順序なのではないでしょうか。
薗川氏
創業者のジェフ・ベゾスも、競合他社ではなく顧客に徹底的にフォーカスすることの重要性を繰り返し説いています。
結局、人を見る。
そこへの強い想いがある。
日本の場合、「データ活用できていないから負けている」と言われると、
「ではデータ活用をしましょう」
となってしまう。
でも、それだけでは本質的には変わらないですよね。
「想い」を実現できる仕組みまでデザインする
FeatU
FeatUを立ち上げた理由も、今日のお話を通じて改めて整理された気がしています。
私たち自身、コンサルティングの仕事で論理的に正しいだろうと思う戦略をつくってきました。
他社事例を調べて、データを集めて、ロジックを組み立てれば、一定の「正しい答え」はつくれる。
でも、それだけでは企業は必ずしも動かなかった。
そこに違和感がありました。
もしかすると私たちがデザインに感じていた可能性は、単に「戦略を形にする」ことだけではなく、企業や人の中にある想いを見つけ、それを実現できる事業や組織まで含めて形にすることなのかもしれません。
薗川氏
やはり、想いは大事ですよね。
何のためにやるのかという想いがないまま、
「データを集約しなければならない」
「DXをしなければならない」
となると、それは単なるタスクになってしまう。
だから人起点という話も、顧客だけを見るということではないと思っています。
顧客も人。
そこで働いている従業員も人。
変革したいと思っている経営者も人。
その人たちが本来持っているものをどうつなげて、事業として成立させ、組織として持続させるのか。
そこまで考えて初めて、人起点の経営になるのかもしれません。
AI時代だからこそ、もう一度「人」を定義する
FeatU
AIによって、これまで人が行っていた仕事も急速に変わり始めています。
そんな時代だからこそ、「人起点」という考え方の意味も変わってきそうですね。
薗川氏
AIの話をしていても、結局、
「じゃあ、人って何なんだろう」
AIが人の仕事を担うようになるほど、では人にしかできないことは何なのか、人がやる意味はどこにあるのかが問われます。
そこを定義しないまま、作業だけをAIに置き換えていくと、結局は効率化の話で終わってしまう。
そう考えると、今はすごく大きな転換期なのかもしれない。
顧客だけではなく、従業員も含めて、企業にとって「人」とは何なのかをもう一度定義する。
そのうえで、事業や組織をつくり直す。
そこで定義した「人」の捉え方が、そのまま事業や組織の設計に効いてくる。
今後そこは、かなり重要になると思っています。
編集後記
今回の対話で印象的だったのは、「CX」の話から始まった議論が、最後には「組織」と「人の想い」にたどり着いたことでした。
顧客を見る。
良い体験をつくる。
データを取得する。
事業成果につなげる。
改善を続ける。
そのための組織をつくる。
一見、それぞれ異なるテーマに見えます。
しかし薗川氏の話を通じて見えてきたのは、本来、それらは一つにつながっているということでした。
日本企業では、その一連の流れが機能や部署ごとに分断され、
DX、CX、人事、新規事業、システム。
それぞれが「点」として扱われてしまう。
だから、論理的には正しい施策を積み重ねても、大きな変革にならない。
FeatUが考えるデザインも、表層を美しく整えることではありません。
人の中にある、まだ言葉になっていない想いを見つける。
その想いを、顧客に届く価値へ変える。
そして、価値を生み出し続けられる事業、業務、組織、仕組みまでつなぎ直していく。
「人起点」で考えることと、「デザインすること」は、実はかなり近いのかもしれません。
CXを画面や顧客接点の話から解放し、人、事業、組織を一つのシステムとして捉える。
薗川氏との対話から、これからのデザイン経営を考えるための新しい視点が見えてきました。
profile
薗川氏
パースペクティブ株式会社。
約30年にわたりIT、コンサルティング、CX・UX、事業支援などの領域に従事。
キャリア前半ではヒューレット・パッカードでIT領域を経験した後、アクセンチュアにて大規模プロジェクトのPMOや地方創生関連プロジェクトなどに携わる。
に通算約5年間在籍し、UCD(User Centered Design)をはじめとする、人を起点に事業・体験を捉えるアプローチを経験。
現在はパースペクティブ株式会社にて、「人起点」の考え方を軸に企業の事業課題と向き合っている。
今回のお話で特に印象的だったのは、「人起点」という考え方が、顧客体験だけでなく、事業や組織のあり方にまでつながっているという点でした。
データやテクノロジーはあくまで手段であり、その先にいる人の想いや、実現したい未来を見失ってはいけない。
デザインの可能性を改めて考える、とても示唆に富んだお話でした。
薗川さん、貴重なお話をありがとうございました!