Designship 2026から考える、デザインとビジネスのこれから|第2回
AIを使えば、わずかな時間でWebサイトやアプリの画面をつくれるようになりました。
アイデアを入力すれば、コードが生成され、動くプロトタイプまで完成する。
これまで数日かかっていた作業が、数時間、あるいは数分でできることもあります。
では、サービス開発は、その分だけ成功しやすくなったのでしょうか。
私たちは、必ずしもそうではないと考えています。
つくるスピードが上がることと、正しいものをつくれることは、別の問題だからです。
Designship 2026では、マネーフォワードの福田伸矢氏と、スタメンの向井猛氏が、変化する開発組織におけるデザインの役割をテーマに登壇しました。
両氏のセッションを手がかりに、AI時代のサービス開発で何が変わり、何を変えるべきなのかを考えてみたいと思います。
マネーフォワード|デザイナーは「画面をつくる人」から「チームが判断できる環境をつくる人」へ。
株式会社マネーフォワードの福田伸矢氏は、「AI時代、デザイナーは何を創るのか? ─ 職種が融け合うチームに“自信”を実装する」というテーマで登壇しました。
AIの進化によって、プロダクト開発の現場では職種ごとの役割が変わり始めています。
これまでデザイナーが担ってきたUIの制作やプロトタイピングを、PMやエンジニアも自ら行えるようになりました。
従来は、デザイナーがFigmaで画面を設計し、レビューを重ね、その後にエンジニアが実装するという進め方が一般的でした。
しかし、静止画のUIだけでは、実際の操作感や画面遷移、利用者が感じる違和感まで十分に共有できないことがあります。
そこで重要になるのが、デザイナー自身が動くプロトタイプを素早くつくり、チームが実際に触れながら議論できる状態を生み出すことです。
例えば、新しい入力画面を検討する場合。
完成度の高い画面デザインを提示するだけでなく、実際に入力し、画面を遷移し、エラーが起きる場面まで試せるプロトタイプを用意する。
そうすることで、PMは要件の妥当性を、エンジニアは実装上の課題を、デザイナーは利用者の体験を、同じものを見ながら議論できます。
ここでデザインが関わっているのは、UIの制作工程だけではありません。
チームが仮説を確かめ、納得して次の判断に進めるまでのプロセスそのものです。
デザイナーの価値を、アウトプットの完成度だけではなく、チームの意思決定にどれだけ貢献できたかという観点から捉え直す。
福田氏のセッションからは、そんな可能性が見えてきました。
スタメン|デザインを制作工程から、事業の仮説検証へ。
株式会社スタメンの向井猛氏は、「みんながデザインを担う組織へ。急加速する開発組織でのデザイナーの戦略」というテーマで登壇しました。
急速に成長するプロダクト開発組織では、開発スピードを維持しながら、事業として何を優先すべきかを判断し続ける必要があります。
ここで課題になるのが、開発を速く進めること自体が目的になってしまうことです。
ユーザーから要望が届く。新しい機能を企画する。短いスプリントで開発し、リリースする。
一見すると、アジャイルな開発ができているように見えます。
しかし、その機能が本当にユーザーの課題を解決し、事業成果につながったのかを検証できていなければ、機能を増やすことが目的になってしまいます。
スタメンのセッションから考えたいのは、デザイナーがUIの制作だけでなく、事業仮説の検証や開発の優先順位にも関わることの重要性です。
例えば、SaaSプロダクトで解約率が高まっているとします。
そこで新機能を追加する前に、利用者がどの段階で価値を感じられなくなっているのかを調べる。
導入時の設定が難しいのか、利用方法が理解されていないのか、それとも期待していた効果が得られていないのか。
原因によって、必要な解決策は異なります。
場合によっては、新機能をつくるより、既存の体験を見直す方が効果的かもしれません。
※この解約率の例は、考え方を説明するための仮想例です。
こうした判断には、ユーザー理解だけでなく、継続率や利用率、ARRなどの事業指標との接続も必要になります。
何をつくるかを考えるだけでなく、何を検証し、何をやめるかという判断にもデザインが関わる。
そのためには、デザイナーが事業を理解するだけでなく、PMやエンジニアもユーザー体験を考え、組織全体でデザインを担うことが重要になります。
スタメンの取り組みは、デザインを特定の職種だけに閉じず、開発組織全体の能力として捉え直す視点を与えてくれます。
FeatU Insight|二つの実践に共通する、デザインの役割の変化。
二つのセッションを並べてみると、デザインの関わり方には異なる特徴が見えてきます。
マネーフォワードでは、動くプロトタイプを通じて、チームが早く確かめ、判断できる状態をつくること。
スタメンでは、ユーザー理解と事業成果を結びつけ、何を検証し、何を優先するかという判断に関わること。
アプローチは異なりますが、共通しているのは、デザインが制作工程の一部分から、開発プロセス全体の意思決定へと関わりを広げていることです。
ただし、デザイナーがすべての判断を担うべきだという話ではありません。
むしろ、PM、エンジニア、デザイナーがそれぞれの専門性を持ち寄り、同じ課題に向き合える環境をつくることが重要なのだと思います。
AIによって職種の境界が曖昧になっても、それぞれの専門性がなくなるわけではありません。
専門性を分断するための境界ではなく、互いの専門性をつなぐための協働へ。
そこに、これからのサービス開発の可能性があるのではないでしょうか。
開発速度と、意思決定の質を分けて考える。
ここで、二つのセッションをつなげて考えてみます。
マネーフォワードの取り組みからは、チームが手応えを得るまでの距離を短くするという視点。
スタメンの取り組みからは、開発組織全体で仮説を検証し、事業価値につなげるという視点。
この二つを組み合わせると、AI時代のサービス開発に必要なことが見えてきます。
私たちは、サービス開発の速度を、少なくとも三つに分けて考えるべきだと思います。
① つくる速度
アイデアをプロトタイプや機能として実現するまでの時間です。
AIや開発ツールによって、今後さらに短縮されていくでしょう。
② 学ぶ速度
つくったものを利用者に試してもらい、仮説が正しいかどうかを確認するまでの時間です。
ここでは、ユーザーリサーチやプロトタイピング、利用データの分析が重要になります。
③ 決める速度
検証結果を踏まえ、続けるのか、改善するのか、やめるのかを判断するまでの時間です。
この段階では、デザイナーだけでなく、企画担当者やエンジニア、事業責任者の共通理解が欠かせません。
例えば、AIによって機能開発が10日から2日に短縮されたとしても、利用者への検証に2週間、社内の意思決定に1か月かかっていたらどうでしょうか。
開発そのものが速くなっても、サービス全体の改善速度はそれほど変わりません。
これは仮想例ですが、AI導入を考えるうえで重要な示唆があります。
AIで「つくる速度」を上げるだけではなく、「学ぶ速度」と「決める速度」も高めなければ、開発組織全体の競争力にはつながらない。
もう一つ、重要な視点があります。
それは、優れたサービス開発では、必ずしも多くの機能をつくることが正解ではないということです。
例えば、ユーザーから「検索機能を充実させてほしい」という要望があったとします。
その要望に応えて、高度な検索機能を追加することは一つの選択肢です。
しかし、利用者の行動を観察すると、そもそも必要な情報がどこにあるのかわからないことが問題なのかもしれません。
その場合、検索機能を追加するよりも、情報の分類や表示順序を見直した方が効果的な可能性があります。
あるいは、検索する必要がないほど、適切な情報が自然に見つかる構造をつくれるかもしれません。
つまり、ユーザーの要望をそのまま機能に置き換えるのではなく、背景にある課題を理解することが重要なのです。
これは、AIによって制作が容易になった時代だからこそ、さらに大切になると考えています。
つくるコストが下がると、私たちはつい「まずつくってみよう」と考えがちです。
もちろん、試して学ぶことには価値があります。
しかし、検証する目的が曖昧なまま機能を増やし続ければ、サービスは複雑になり、利用者の負担も増えてしまいます。
何をつくるかだけでなく、何をつくらないかを決めること。
その判断にも、デザインの価値があるのではないでしょうか。
デザイナーの役割は、狭くなるのではなく、変わっていく。
AIによって誰もが画面をつくれるようになると、デザイナーの仕事は減っていくのでしょうか。
一部の制作作業が自動化されることは、十分に考えられます。
しかし、私たちは、それがデザインの価値そのものの縮小を意味するとは考えていません。
むしろ、デザイナーが向き合うべき対象は広がっていくのではないでしょうか。
利用者の課題を発見すること。
事業の仮説を検証すること。
異なる専門性を持つ人たちの認識をそろえること。
そして、よりよい意思決定ができる環境をつくること。
これらは、必ずしもデザイナーだけが担う仕事ではありません。
だからこそ、職種の境界を越えた協働が重要になります。
一方で、役割が広がることと、専門性が不要になることは違います。
人の行動を観察し、複雑な情報を整理し、目に見えない課題を具体的な体験として表現する。
そうしたデザインの専門性は、さまざまな職種が協働する開発組織において、むしろ重要性を増していくはずです。
速くつくれる時代だからこそ、考えることをやめない。
AIによって、サービスをつくるための技術的なハードルは確実に下がっています。
それは、これまで専門的な技術を持つ人しか参加できなかった開発に、より多くの人が関われるようになるということでもあります。
私たちは、この変化を前向きに捉えています。
ただし、誰もがつくれるようになったからといって、誰もが価値のあるサービスを生み出せるわけではありません。
何のためにつくるのか。
誰の、どのような課題を解決するのか。
その仮説は正しかったのか。
そして、事業や利用者にどのような変化を生み出したのか。
こうした問いに向き合い続けることが、これからのサービス開発には欠かせないと思います。
つくることが速くなった時代に、本当に速くすべきなのは、学び、判断し、よりよい価値へ近づいていくサイクルなのかもしれません。
参考セッション|Designship 2026
株式会社マネーフォワード|福田 伸矢 氏
「AI時代、デザイナーは何を創るのか? ─ 職種が融け合うチームに“自信”を実装する」
株式会社マネーフォワード株式会社マネーフォワードのコーポレートサイトです。会社情報、プレスリリース、採用情報などさまざまな情報を掲載しています。
株式会社スタメン|向井 猛 氏
「みんながデザインを担う組織へ。急加速する開発組織でのデザイナーの戦略」
株式会社スタメン株式会社スタメンは2016年に設立したスタートアップです。こちらのコーポレートサイトでは、スタメンの会社概要、採用情報、運営サービス、IRなどに関する情報をご覧いただけます。Designship 2026 公式サイト
タイムテーブル | Designship 20262日間・2ステージのセッションと登壇者。Designship 2026 のタイムテーブルはこちらから。※本記事はDesignship 2026のセッション情報と取材メモをもとに、FeatU独自の考察を加えて構成しています。本文中のサービス開発事例や数値は、論点を説明するための仮想例であり、登壇企業の実績を示すものではありません。